「森の文明」を今、この「手」に引き継ごう

今年から、僕は友人たちと村の長老たちから炭焼き窯を引き継ぎ、炭焼きを学んでいる。この窯は、土と石で作られていた伝統的な窯を、現代的に耐火モルタルと大谷石と耐火レンガで改良した最新バージョンの清澄型炭焼き窯だ。村の長老たち4人が15年間で300回焼いてきた窯だが、とうとう去年窯の天井にヒビが入り、また長老たちも90才に近づき、これを機に引退しようということになった。

釜沼の炭焼き小屋

釜沼の炭焼き小屋からのぼる煙

ある朝、炭焼き小屋で長老たちがそんな相談をしている時、僕に電話をかけてきた。

「林さんよ〜、今、窯でみんなといるんだけどよ〜、ちょっと相談があるんだけども、時間があったら、ちょっくら来てくんねか?」
88才になる炭焼きのリーダーのきんざさんからだった。

炭焼き小屋へ行くと、4人の長老たちが炭火に当たりながら、輪になって座っていた。薄暗い炭焼き小屋のなかに、赤く燃える炭火の火がチロチロと揺れ、長老たちの顔を照らしていた。

僕はその輪の中に入れてもらい、ビールケースをひっくり返した椅子に座り、炭火に当たると、きんざさんが静かに語り始めた。

「実はよう、もう俺達も随分年を取ったし、窯の天井にもヒビが入り、これで引退しようと思うんだ。でも、林さんが引き継いでくれるなら、この小屋ごと全部譲ろうと、今、仲間たちと話していたんだ。」

85才になるこんぴらさんが、目をキラキラさせて続けてこう言った。

「この村から煙を絶やしちゃ、いけないよ。俺は、そう思うよ。炭焼きの煙がのぼるのは、この村が元気な証拠さ。ホントだよ〜。」

 

僕の暮らす大山地域にある一番古い高蔵神社は、1300年前に建てられたと言われている。その頃、四国の阿波(あわ)の国から忌部(いんべ)族が黒潮に乗って、紀伊半島、伊豆半島、大島、房総半島へと移動し、館山へ上陸すると、この地を同じ安房(あわ)と名づけ、稲作と神道を伝えながら北上していったと伝えられている。

「あわ」とは漢字が伝わる以前の古代語では、特別な意味を持っていた。

古代語で「あ」は「始まり・天・父」を、「わ」は「調和・地・母」をあらわし、そのふたつを合わせた「あわ」という響きは女性性、総合的、感受性、植物性、内観性、親和性、全体性をあらわす特別な言霊だ。

ここは、古代から豊かさを象徴する素晴らしい土地なのだ。

そして、人は森へ入り、田んぼをつくり、家を建て、神社を建て、村をつくり、1300年間、自然を破壊することなく暮らしてきた。

1300年もの時間をかけてゆっくり熟成してきた里山文化は、長老たちの「手」に残されている。それは、縄文から連綿と続く「森の文明」だ。

しかし、80代より下の世代になると、時代は高度経済成長期に突入し、農業は機械化され、効率的でないとされた伝統的な暮らしや文化は急速に薄れてしまった。

今でも、80代の長老たちは「手」で何でも作ることが出来る。まさに、最後の百姓だ。山へ入り、木を切り、炭を焼き、小屋を建て、水を引き、お米と野菜を育て、わらや竹で生活道具をつくり、長老たちは里山にある資源を枯渇させることなく利用し、生活に必要なものをすべて「手」でつくる知恵と技術を持っている。そう、彼らは「お金と石油と電気」がなくても、生きていけるのだ。

今、僕らの世代で、この80代が持っている里山文化を引き継がなければ、1300年分の歴史と文化が消えてしまうことになるだろう。これは文化のレッドデータとも言える。そして、これは日本中の農山漁村で起きている。

僕らは、今、宝物を失おうとしているのだ。しかし、これはあまりにももったいない。失ってから、その重要さに気づいたんじゃ、もうおそいのだ。

伐採した木を山からおろす長老たち

伐採した木を山からおろすたくましい長老たち

88才の最長老のきんざさんには森の文明が宿っている

88才の最長老のきんざさんの「手」には「森の文明」が宿っている

地球規模の環境破壊が問題となり、「持続可能性」が全世界共通の合言葉となっている現代社会において、この「里山文化」とは地球上で僕は重要な意味を持つと思っている。

それは日本が世界に貢献できる“文化“であり、“精神“であり、そして”美意識“だ。

 

「ぜひ、引き継がせてもらいます。」

 

と、僕は答えていた。

どうやって維持し、運営していくかはわからない。でも、やむにやまれず、これはとにかく引き継ぐしかないと、心が叫んでいる。

でも、炭焼きは一人では大変だし、この里山文化をみんなと共有したい。すぐ友人たちに電話をし、声をかけると8人の仲間が集まってくれた。

それから炭窯を大修理し、いよいよ今年から炭焼きを学び始めたのだ。

しかし、炭焼きは甘くはない。

山で木を切ることは危険な作業だし、伐採した重い木を運び、割り、焼き、温度管理等々、真っ黒になって一連の作業をすると一週間以上かかる。これだけ手間と時間がかかる炭を焼いても生活が出来るほどの収入にはならない。だから、今じゃ誰もやらない。そりゃ、もっともだ。8人の仲間も他の仕事があり、なかなか集まれないのが現状だ。

国土の70%が森林の日本なのに、森の資源を使わず、世界中から木材を集め、東南アジアから炭を輸入している。石油を燃料とする大型タンカーで運ばれてくるそれらの商品は、日本のものより安い。

だから、日本の林業は衰退して、誰も山へは入らなくなり、山は荒れ、増えた獣は田畑を荒らし、益々耕作放棄地が増え、村は限界集落となっていくという悪循環が起きている。

だから、地方の農山漁村に原発が建てられたのだ。

今の社会構造そのものが、持続可能に出来ていない。

 

そんなことは、わかっているよ。

でも、しょうがないじゃないか。

金にならなきゃ、食っていけないじゃないか。

 

と、現代社会のジレンマに苦しむそんな叫びが聞こえてくる。
う〜む、この悩ましい問題をどうしたら良いのだろうか?

 

でも、やるしかない。

とにかく、この「森の文明」というバトンを受け取ろう。

あとのことは、走りながら考えよう。

きっと、この里山には未来をひらく「答え」がある。

里山一千年の文化を、「森の文明」を今、この「手」に引き継ごう。

と、ウルトラポジティブな僕はいつものごとく前へ突き進むことにした。

 

ということで炭焼きをやりたい人、一緒にやりませんか?

来週の2/17(月)8:30から始めますので、ご連絡お待ちしています〜!

photo by 下郷さとみ

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「森の文明」を今、この「手」に引き継ごう」への2件のフィードバック

  1. はじめまして。佐藤恵と申します。東京在住です。鴨川へは鴨川自然王国会員で月1回の頻度で通っています。ゆうぎつかは吉度日央里さんの合宿で見学させていただきました。
    炭焼にも興味があるので2月17日はぜひ参加させていただきたいと思います。

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